額賀長官が北朝鮮ミサイルの脅威を強調

2006.8.26


 産経新聞によると、25日、額賀福志郎防衛庁長官が都内での講演で、北朝鮮が7月5日に発射した弾道ミサイルのうち「テポドン2号」以外の6発について「北朝鮮が狙った枠内で着弾していることを見逃してはならない。10年前と比べ、相当技術的に進歩しているようにみえる」と述べました。額賀長官は以前の発言をまた繰り返したことになります。

 ここで言う「北朝鮮が狙った枠内」が航行禁止区域のことなら、軍事的に意味のないほど広い領域を指していることになります。自衛隊には北朝鮮がどこを狙ったのかは推定でしか分かりません。おそらくは三角形状の航行禁止区域の重心点に照準したのだろうと推定できるだけです。照準点は分からなくても、照準点を個々に設定するとCEPを測定できず、演習の意義を落とすため、そういうことはしないだろうと推認できます。すべてのミサイルが着弾した場所を点で結ぶことで、大体のCEPを把握できると考えて差し支えありません。

 着弾の精度は、報道により半径10km〜50kmまで様々です。初期報道では250kmもあったのに比べると、かなり小さくなったとは言えますが、CEPが10kmもあるのでは軍事施設の攻撃には使えず、東京のような都市部に撃ち込んで民間人を死傷させ、恐怖をまき散らすことくらいにしか使えません。また、額賀長官は「スカッドとノドンがわが国にとって直接の脅威だ」と述べましたが、スカッドは射程距離から見て日本には届きません。全体的に額賀長官は過剰な脅威を主張しているように見えます。

 北朝鮮からは、日本のミサイル防衛は、米軍や北朝鮮から見れば傀儡の韓国軍が北朝鮮本土を侵略する時に、北朝鮮のミサイル攻撃から後方基地である在日米軍や日本政府を守るためと見えるでしょう。ミサイル防衛が危機を排除すると考えるのは誤りです。蟻が小さな隙間から家に侵入するように、新しい攻撃方法が考案されるだけです。

 さらに、額賀長官は、自衛隊の海外派遣を「恒久法」で実施できるようにし、「自らの政府の判断で、国会の承認を得ながら、機動的に対応できるよう一般的な法律を作ることが望ましい」と述べたといいます。サマワに自衛隊を派遣する時、「戦争に行くのではない」という言い訳が用いられました。かつて、日本が「日中戦争」を「満州事変」と呼称したのは、「戦争」という言葉を使うとアメリカが中国と結んだ条約を守るために参戦するので、それを避けるためでした。実際、イラク派遣で最初にあがった任務は、ティクリートでの米軍の後方支援活動だったといいます。こだわり抜いて決めたサマワ派遣だったように思っている人がいるかも知れませんが、実際には派遣ありきで進められたのです。恒久法の制定は、自衛隊が米軍と共に海外で軍事活動を行う未来をもたらすことしかしません。米軍は「テロの根絶」という「交通事故の根絶」に等しい遠大な任務を遂行中です。こんなことに協力していたら、いずれ大きな戦争に巻き込まれるのは目に見えています。そして、そうする動機は一層馬鹿げています。湾岸戦争終結後、戦勝祝いの新聞広告に、日本の名前がなかったという、単にプライドの問題以外、動機らしい動機は見当たらないのです。そのために、日本国憲法の「国際社会で名誉ある地位を占めたい」という一文が利用されました。

 対テロ作戦は警察活動みたいなものだから、賛成するのは当然と考える人が多いのは無理もありません。しかし、軍事学の分野では、テロリズムは貧窮から生じるもので、根絶はほとんど不可能と考えるのが一般的で、単純に悪党の集まりとは見ないのです。武力で押さえつけるよりは、テロリストになる理由をつぶしていく方が賢明です。

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