北朝鮮の地下核実験と対テロ戦争

2006.8.21

 北朝鮮が地下核実験を行う兆候を見せています。現在までに入手された情報では、実際に実験が行われるかどうかは分かりません。しかし、ミサイル発射で国連の非難決議を受けた直後であることから、北朝鮮が国際社会からの圧力に屈しないことを示そうとしていることは明白です。ミサイルの打ち上げ演習と違い、地下核実験の場合、住民の疎開まで含めた演習は考えにくいと思います。実際に、実験を行う可能性は高いと思います。しかし、ケーブルを準備した事実から核実験だと断言はできず、威力の大きい爆発物のテストだと考えてよいのではないでしょうか。

 核爆弾であるか否かにより、その結果は大きく変わります。韓国の太陽政策は、北朝鮮の態度を変えさせることはできず、このまま地下核実験が行われれば、韓国は経済支援を凍結せざるを得ないでしょう。国際社会は、再び国連で非難決議を行うことになりますが、今度はイランの核開発の非難決議と同等の経済制裁を含めた内容になるでしょう。韓国には、先のミサイル打ち上げでの非難決議の討議において、蚊帳の外におかれたという不満があります。議論の中心にいるためには、自分で非難決議を提案するしかありませんが、それが太陽政策を掲げる盧武鉉大統領にはできないでしょう。それは政権の中心的政策が誤っていたと認めることになるからです。日本にとって、韓国が北朝鮮と同じ民族である利点を活用し、北朝鮮の意図を的確に日本に伝えて、共同で北朝鮮問題にあたれるのが理想です。しかし、日韓間には政治問題があり、連携が取れないという問題があります。これは小泉総理が軍事的判断ができず、より小さな問題にこだわって大勢を見失っているからに他なりません。

 北朝鮮は国際社会を信頼できず、自国の力だけで独立を勝ち取ろうとしているようです。北朝鮮の狙いは、核開発をちらつかせて国際社会から支援を引き出すよりは、早く核攻撃能力を完成させ、外国が攻撃する可能性をなくそうとするところにあるようです。核攻撃力を得たあとは、内政を改善して体制を安定させる路線へ切り替えるでしょう。これに対して、最も敏感に反応するのは中国でしょう。北朝鮮が核爆弾を持てば、これまでのようにコントロールが利かなくなります。今のところ、中国には何の動きも見えませんが、実験を中止させるよう動いているはずです。しかし、中国にも北朝鮮に核開発を諦めさせる手はありません。

 しかし、核爆弾をミサイルで運ぶ技術を持つには、まだしばらく時間がかかります。核兵器研究に携わったことがある、ロシアのウラジーミル・ドボルキン退役少将が、1680年代末の情報を根拠に、「北朝鮮は数個の核爆発装置と、地下核実験の能力を保有しているが、現時点で北朝鮮が保有する核爆発装置は、核実験には使えるものの、サイズが大き過ぎて兵器としては使えない」と明言したと報じられました。北朝鮮のミサイルに核爆弾を搭載するには、重量が1t程度、サイズをミサイルの直径程度まで小さくする必要があります。これには相当な技術革新が必要なので、まだ当面は大丈夫だと思います。従って、北朝鮮の核兵器は防衛用に自国領土の汚染を覚悟の上で使うための兵器です。とはいえ、韓国軍や米軍が北朝鮮領土内に入る可能性は少なく、大規模な空爆だけで北朝鮮の体制は崩壊するのが実情だと思います。この時、通常爆弾や化学兵器を搭載したミサイルが、韓国や日本に対して発射され、限定的(とは言っても相当な被害になるでしょう)な被害が出る可能性はあります。

 とにかく、北朝鮮が本当に地下核実験を行うのか、じっくりと見守る必要があります。その前に、牽制として、日本政府が「実験が行われたら日本は再び国連非難決議を提案する」と発言しておくのがよいと思います。残念ながら、国会議員も夏休みでそうした動きはないようです。

 実験が行われたら、世界は新しい段階に入ったと考えるべきです。北朝鮮の技術はすぐにイランに輸出され、双方で小型核爆弾の開発が行われることになります。2003年にはじまった対テロ戦争にも、この影響は及んでいきます。最近、military.comは、軍に再招集されて当惑する米兵士たちについて報じました。すでに戦争がはじまって3年を経過していますが、何の進展も見られないどころか、かえって悪化しています。そして、いつの間にか20年戦争という言葉が聞かれるようになりました。19日に引用したギングリッチの発言の中には「今後20年は厳しい状況が続く」という言葉があります。我々は、なし崩し的にアメリカが始めた戦争に巻き込まれていきます。この長期戦の中で、ミサイルで運搬できる核爆弾が完成した時、闘争は次の段階に進むでしょう。

 イラクの自由作戦がはじまった当時、単純に湾岸戦争を連想して、短期間で終わると考え、対テロ戦争に賛成した人たちは、この状況を想像したでしょうか? 世界は依然としてカオスの中にあり、我々は大きな戦争を防止しながら、紛争の原因を減らしていく必要があります。しかし、大国は自国の利益のためだけに安全保障を考える傾向があり、紛争をより大きなものにしがちです。これは野生動物が自分で自然をコントロールできないのと同じです。長らく、自然界のバランス論が横行していましたが、そう見えたものは偶然の産物に過ぎません。人間はようやく自然を管理する術を身につけましたが、実は自分たちも野生動物と大差ないわけです。

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