ゆっくりと着実に進む南レバノン占領

2006.8.5

 ヒズボラが200発ともいわれる大量のミサイルをイスラエルに打ち込んでいるのは、停戦をもたらすためだったようです。ヒズボラの指導者ナスララ師が空襲の停止を条件にミサイル発射を中止すると申し出ました。また、空爆を止めないなら、テルアビブを攻撃するとも言いました。非戦闘地域からテルアビブを攻撃するには、少なくとも160kmは飛ぶミサイルが必要です。ヒズボラはゼルザル2(Zelzal-2、別名 Mushak-200)を使うつもりのようです。これは、射程200km、弾頭重量600kgという強力なイラン製ミサイルです。しかし、この脅しにイスラエルは乗らないでしょう。ナスララ師の声明は無視されるはずです。

 昨日、レバノン側に国境線が入り込んでいる東部でも戦端を開く選択肢があると書きましたが、military.comの記事によると、やはりそうしているようです。タイベ(Taibeh)で戦車が破壊されて3人が戦死したという記述があります。詳細地図を見ると、タイベがリタニ川に近づくために都合がよい位置にあることが分かります。まず、最も近い橋を封鎖して、次々に西へ進撃してすべての橋を奪取するのです。タイベから海岸へ通じる道路が重要になります。すでに、リタニ川にかかる橋は空爆で破壊されています。ヒズボラはイスラエル軍の進撃を少しでも遅らせるため、命を捨てた待ち伏せ攻撃に出るでしょう。

 アミール・ペレツ国防大臣が、南レバノンの攻勢を第二段階へ進める準備を始めるよう命じました。これは、まだ投入していない予備役兵が参戦することを意味します。すでに投入されている部隊と交代したり、共に行動することで南レバノンの全域を占領していくのです。

 丘陵が連なり、入り組んだ地形でもあるので、南部レバノンの占領には時間がかかります。昨夜、NHKのニュース番組で、元イスラエル軍の将校が、48時間でリタニ川以南を占領すると言っていましたが、私はもっとかかると思います。ヒズボラ兵が待ち伏せ攻撃をできる場所が多くあり、その一つ一つをイスラエル軍は慎重に潰しながら前進する訳ですから、進撃速度はそれほど早くはなりません。先に進んでも、抵抗を続けるヒズボラ兵がイスラエル軍の背後を襲っては逃げる攻撃を繰り返すはずです。彼らは、イスラエル軍がリタニ川に到達しても諦めないでしょう。こうした動きに対処するため、イスラエル軍は慎重に行動するので、1週間以上かかると見るべきです。

 作戦は成功するものの、それによって成し遂げられる成果の是非と永続性は非常に疑問です。イスラム教徒の多くは、イスラエルへの反発をより強めました。また、イスラエル軍が農場を攻撃したことは国際法(ジュネーブ条約第2追加議定書第14条)に違反する可能性があります。イスラエル軍は、農場がヒズボラに利用されていたと主張するつもりでしょう。

 日本赤十字社のニュースレターによると、レバノンの人的被害は次のような状況です。

死者
784人
負傷者
3千人以上
国内避難民
78万人
国外への避難民
21万人以上

 これまでに、次のような対策が実施されました。

  • 約4千人に対し、傷の手当てや救出作業、遺体の捜索を実施。
  • 30日夕方、救援物資(20万食分の食料パック、1,500人分の毛布、布団用マット、台所セット)がレバノン南部の港に到着。
  • ベイルートから500人分の食料や衛生セットが陸路で到着。翌31日に配布。
  • 日本赤十字社が、シリア赤新月社、キプロス赤十字社に3,500万円の資金援助を決める。
  • レバノン南部の一部は赤十字社も立ち入れず、対処できていない。

 イスラエルが道路や橋などの交通機関を攻撃しているため、救援活動が遅延しているのが心配です。

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