膠着化の様相を呈したレバノン戦

2006.7.31

 Strategic Forecastingのニュースレターは、戦争がルーチン化してきたと書きました。緊張が安定化して、双方が同じ行動を繰り返す、長期戦のパターンにはまり込んだという意味です。一言で言うなら「手詰まり」ですが、むしろ相撲で組んだまま土俵中央で双方が動けない状態と言うべきでしょうか。

 この手詰まりの中で、ビントジュバイル付近の部隊は国境近くまで一時的に退却しました。これは準備が整うまで、敵と距離を置いているだけです。

 その一方、突然、イスラエル外務省高官が、ヒズボラの即時武装解除は求めないと発言しました。イスラエルは大量動員をちらつかせながら、妥協策も探るよう方針を変えたようです。武装解除を求めない停戦条件なら、ヒズボラにも同意する余地があります。ヒズボラがミサイルを発射せず、シリアやイランから武器が流入しなければ、それでよいというわけです。これが実現すれば、とりあえずは中期的に安定した状態が作り出せます(ただし、恒久的な平和にはなりそうにありません)。

 現状に変化を与える唯一のチャンスは、イスラエルが大量動員した兵士でビントジュバイルを囲み、砲爆撃を行ってから町を占領する攻勢に出ることだけです。それをやるのか、もっと大きな戦争をするためにヤクザの手打ちのようなことをやって、とりあえずは兵を退くのか、いずれかでしょう。

 それから、ヒズボラが、イラン製の「Fajr-5s」を改名した「カイバー1(Khaibar-1)」という新型ミサイルを使ったという情報もあります。これは車載型のカチューシャ・ロケットで、射程距離は従来の4倍に伸びました。Globalsecurityの写真で「FADJR-5」と書かれているデータが、これに最も近いと思われます。

 中東には反イスラエルの声が高まり、ヨーロッパでは民間人に対するイスラエルの攻撃に対して批判が高まっています。ヒズボラがこうなることを狙って今回の攻撃を仕掛け、イスラエルがそれに気がついている気配があります。早期停戦もあり得ない選択肢ではありませんが、少なくともビントジュバイルのヒズボラ兵を取り除かないことには、イスラエルは安心できないと思います。また、ヒズボラも徹底抗戦の姿勢を変えていません。目下のところは、ビントジュバイル戦が行われる可能性が高いと考えておくべきでしょう。

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