数日内にビントジュバイルに猛爆必至

2006.7.28

 パレスチナ自治政府議のムハマード・アッバス議長は、拉致されたイスラエル兵(ギラド・シャリド伍長)の解放のために尽力中だと主張しました。ローマでの記者会見で、アッバス議長は「早急の解決」を口にしたと報じられましたが、AP通信の通訳によるとアッバス議長は「激しい交渉」と言ったようで、人質解放の線はいまだ不明瞭です。

 そこで、戦闘の状況から事態を推測しようと思います。military.comがAP通信の記事を掲載しています。

 ヒズボラはすでに1,400発以上のミサイルを発射しました。イスラエルはこれらの攻撃を食い止めることができません。それは当然で、ヒズボラが持つ一番射程が短いミサイルでも射程が16kmあり、国境付近で手間取っている状況では、ミサイル発射場所を攻撃できないのです。すべてのミサイル攻撃を終わらせるには、イスラエル軍はベイルートとダマスカスをつなぐハイウェイまで占拠する必要があります。そこで、ヒズボラの活動拠点や、ミサイルが発射されたと思われる場所を空爆して対処しているのです。このため、巻き添えになったレバノン国民が多数死傷しています。

 エフード・オルメルト首相は、予備役師団3個に動員命令を出しました。1個師団は12,000〜15,000人で構成されるため、動員人数は3万人以上と見積もられています。これはかなり大きな戦争を想定した決定です。AP通信の記事は「イスラエルはより大きな攻撃を想定していなかったのではないか」と疑問を呈しています。つまり、イスラエルは最初に動員した兵力で十分に対応できると考えていたものの、強硬な抵抗にあって急遽追加動員を決めたのではないかというわけです。私はドロナワ式の戦争指導を連想します。イスラエルは勝利の確信なしに、ヒズボラが降参するのを期待して、定石的な作戦行動をやっているに過ぎないと思えるのです。

 法務大臣ハイム・ラモンは陸軍のラジオ放送のインタビューで、村に地上軍を入れる前に空爆を行うと発言しました。これは意味深な発言です。まず、イスラエル軍が不用意な形でビントジュバイルに接近したため、激しい抵抗を受けて退却を強いられたとイスラエル側も認識していることが分かります。RPG、小銃、仕掛け爆弾、対戦車ロケットだけでも、結構な抵抗はできるものです。人口が少ないイスラエルにとって、「損害を顧みず攻撃し、ビントジュバイルを占領せよ」という選択肢はありません。そこで、事前に砲爆撃を行うことでヒズボラの抵抗を不可能にし、一気に村に侵入して、占拠するのです。空爆でビントジュバイルを廃墟にするのは可能です。しかし、それは国際社会からは蛮行としか見えないでしょう。それに、拉致されている兵士が南レバノンにいないという確信はあるのでしょうか? インタビュアーもそれが気になったのか、「すべての村を壊滅するのか」と尋ねています。ラモン法相は「これらの場所は村ではない。ヒズボラが隠れ、活動をする軍事拠点だ」と述べました。これは徹底的な砲爆撃を示唆したものと受け止めなければなりません。ということは、準備が終わり次第、猛烈な砲爆撃がビントジュバイルに対して行われるということです。これは数日以内に現実化するでしょう。イスラエル軍は最前線での記者の同行取材を認めていないようです。こうなると、衛星写真しか頼れる情報源はありません。どこかのメディアが攻撃前と後の衛星写真を公開してくれることを望みます。

 ヒズボラ側の攻撃としては、ラジオ局のアル・マシリクが「レバノン人に地中海沿岸のクレイラ(Qleileh)から、南レバノンのホウラ(Houlah)に通じる道路を通らないようにと警告してるので、この道路に対する攻撃を行っているのかも知れません。南レバノンの地図(著作権上掲載できないので、リンクで見てください)で見ると、地中海沿岸を南から北へと辿ると「25.6」という赤くプリントされた数字が見えます。その数字の少し東側にある「Qleile」がクレイラです。クレイラから真東に東レバノン国境まで辿り、その少し北にある「Houla」がホウラです。ヘブライ語の「a」と「h」は発音が似ているので置き換えられたり、省略されたりするので、町の名前のスペルは少し違っています。この警告の意味は南レバノンを東西に横断する道路をヒズボラが防衛線と考えていることを示しています。しかし、5,000人程度のヒズボラでは、この防衛線を守りきることなど不可能です。とりあえずは、イスラエル軍はビントジュバイルで引っかかっているので、この防衛線は名目上は守られています。ビントジュバイルが陥落したあと、この道路周辺で死闘が繰りひろげられる可能性があります。

 とりあえず、この辺までは作戦の動きは読めます。ところで、アルカイダの参入は極めて危険です。アル・ザワヒリは「イスラエルとの戦争は停戦によらず、聖戦となる。スペインからイラクまで、イスラム教が拡大するまで続く。我々はどんな場所でも攻撃する」と述べています。前に、ソマリアの内戦にアルカイダが参入する危険を指摘しましたが、それより先にレバノンにアルカイダの活動が拡大しそうです。極めて危険な状況が目の前に迫っている気がします。イラクを中心として戦争やテロが東西に向けて広がっていく可能性を確信せざるを得ません。今後、数十年はこうした戦争が継続されるのではないでしょうか。「イスラム戦争」と呼ぶべき戦争がはじまったと実感しています。

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