中東紛争が大戦争に発展する可能性

2006.7.24

 石破茂氏の敵地攻撃論の続きをやるはずだった「サンデー・プロジェクト」ですが、昭和天皇の言葉を書き留めた富田メモと福田康夫氏の総裁選不出馬が中心になり、中止になったようです。しかし、敵地攻撃論は大量破壊兵器の問題に比べれば、優先事項ではありません。北朝鮮やイランのミサイルと核兵器の開発がどの段階まで進んでいるのかを考えることこそ最優先課題です。それなのに、こうした議論はいつも国内の防衛利権を持つ人たちに都合のよい話にすり替えられていくのが常です。

 さて、レバノンの情勢も不安ですが、ソマリア暫定政府を支持するエチオピア軍部隊がソマリア領内に侵入しました。首都モガディシオを支配したばかりのイスラム原理主義勢力「イスラム法廷連合」に対する武力攻撃が心配されています。法廷連合の指導者アウェイス師は徹底抗戦の構えです。

 エチオピアにとってソマリアは、トルコのクルド人のような存在です。ソマリ人の一部がエチオピアに住んでおり、1977年にエチオピア領内のソマリ人が決起し、ソマリアとの統一を実現しようとしました。この紛争は典型的な代理戦争になり、アメリカがソマリアを、ソ連とキューバはエチオピアを支援しました。その結果、アメリカはソマリアに武力介入し、大きな失敗を犯して撤退し、エチオピアは長らく無政府状態になってしまったのです。イスラム法廷連合はこの状態に終止符を打ったのですが、それが今回のエチオピアの介入を誘発しました。エチオピアはこれを機会にソマリ人問題を解決したい考えと考えられます。心配なのはイスラム法廷連合とアルカイダの関係が未だに不透明なことです。イスラム教徒が多いアフリカにテロが拡大していく潜在的な危険があります。東と西に向かってテロが拡大し、イランによる反イスラエル運動も拡大しています。反イスラエル運動を根とする複合的な闘争が大戦争の火種となる時代の到来を感じます。冷戦の終わりは平和を意味しなかったのです。これからの数十年はこれが軍事問題の中心になると予測します。私は大戦争は目の前に来ているのではないかとすら考えます。

 すべてはイラクに侵攻したアメリカの戦略的ミスです。イランがイラクに浸透するのはフセイン政権が防いでいたのですが、それを排除したためにイランのイラク浸透が促進されてしまいました。

 そして、自衛隊がこの戦争に巻き込まれていくのではないかという危惧を今年になってから感じるようになりました。未熟な小泉政権は自衛隊が米軍と共に地上戦を行う下地を作ってしまいました。今後、米軍に余裕がなくなれば、自衛隊がこの戦争に動員されていく可能性があります。これからは、この潜在的な危険を前提に軍事分析をしていく必要があると思います。しかし、この分野の情報が少ないのが足を引っ張るでしょう。
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