北朝鮮のミサイル技術は本当に向上したのか?

2006.7.17

 13日に放送された「きょうの出来事」は、北朝鮮のミサイルが非常に近い場所に着弾していたと報じていたことに気がつきました。下のリンクで映像を見ることができます。

http://www.youtube.com/watch?v=eWFrvn3tkhw

 この番組が、政府内部で閲覧されている書面を取りあげながら、一覧表を画面にはっきりと表示しなかったのは問題です。部分的に見せるだけでは情報としての形になっていません。全体を映さないという条件で公開されたものなのでしょうか。書面は2枚あり、1枚は英語で書かれているようですから、アメリカからもらった情報のようです。もう1枚はこれを日本語にしたものか、日本独自の解析結果のどちらかでしょう。

 この書面では2〜4回目の発射の時刻は次のようになっていました。globalsecurityのデータと微妙に異なります。軍事ミサイルのように秒単位の対応が必要なことで、これだけ誤差があるのは問題ではないのか非常に気になるところです。

2発目 4:04-4:11
3発目 4:59-5:00
4発目 7:13-7:18

 この番組の主張は、4発目以降がすべて半径10kmの範囲に着弾しているので、北朝鮮のミサイルの精度は非常に高いというものです。この結論には疑問があります。

 北朝鮮は着弾予想地点に三角形状の航行制限区域を設けていました。4発目以降のミサイルはこの中心付近に集中して着弾しています。恐らくは、1、2発目もこの区域に着弾させる予定と考えられます。ところが、飛びすぎて4発目以降の着弾グループの延長線上にバラバラに着弾しました。この結果から何が想像されるかというと航行制限区域の重心点が照準点で、テポドン2以外のミサイルはすべてここを狙ったのだろうということです。ところが、2発が大幅に外れ(見た感じでは100km程度)、4発だけが照準場所付近に落ちたのです。これでは、スカッドとノドンのCEP(半数必中界)はざっと10kmということになってしまいます。この数字は従来言われていた性能に比べるとかなり劣るのです。globalsecurityのデータでは、スカッド・ミサイルのCEPは次のようになっています。

スカッドA
4,000m
スカッドB
900m
スカッドC
900m
スカッドD
50m

 ざっと見ただけでも、10kmは明らかに悪い数字でしかありません。ところが、データを観た上でコメントした元統幕議長は、レベルが向上していると言いました。核弾頭を搭載している場合はCEPは2kmでも問題はないといわれます。しかし、通常弾頭の場合、10kmは実用に堪えません。しかも、テポドン2以外のミサイルは同じ場所(旗対嶺)から発射されているわけで、すべて異なる場所から打ち上げて同じ場所に落とすのに比べれば容易いことだったはずです。

 また、この番組が示した図では、テポドン2は舞水端里発射施設からほぼ真東に飛び、やや南に寄ったところに着弾したことになっています。やはり、アラスカに向かうように見えた初期の図は間違いだったようです。

 今回の報道で、北朝鮮はテポドン2の打ち上げを成功させると同時に、多数のミサイルを同じ場所に打ち込んで技術の優位を見せつけるつもりだったという新しい仮説を立てられます。しかし、目玉商品だったテポドン2は失敗し、他のミサイルも予想以上にばらけて着弾したため、目的を達しなかったのではないでしょうか。もちろん、これは照準点が一カ所と仮定した場合に成り立つ話です。

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