石破茂氏の策源地攻撃論は成功するか?

2006.7.16

 16日放送のサンデープロジェクトで、前防衛庁長官の石破茂氏は「敵地攻撃論」について「策源地攻撃論」と言うのが正確だとした上で、これを実行するタイミングとして、「我が国に対する攻撃の意図が示され」「ミサイルが発射される兆候(ミサイルを直立させる)が確認された時点と述べました。攻撃の方法としては「トマホーク巡航ミサイル」をあげました。私はこの話は眉唾物だと思いました。

 まず、巡航ミサイルがどんなものか、基本的なところを知る必要があります。巡航ミサイルは、あらかじめインプットしたコースに従って飛行します。だから、正確に飛んで極めて高い精度で命中します。「ほとんど命中する」といってよい命中率で、念のために数発を放てば確実に目標を撃破できるでしょう。しかし、こういう仕組みのために、固定目標にしか使えないという欠点があります。舞水端里発射施設のような関連施設の発射台や組み立て工場のような建物、事前に判明している地下ミサイル基地の出入口を破壊することは難しくありません。地下施設はバンカーバスターのように、地面に潜ってから爆発するタイプの爆弾の方がより効果的です。しかし、スカッドやノドンはタイヤがついた車両型の発射台(ランチャー)から打ち上げられます。これらは巡航ミサイルでは絶対に破壊できません。

 移動するランチャーに対して、唯一対応できるのが、先日紹介した無人偵察攻撃機プレデター「MQ-1」のような兵器です。これを多数、事前に判明しているミサイル基地や存在が疑われる地域に飛ばして、ランチャーを破壊するしかありません。プレデターは熱線も関知できるので、周囲と温度が大きく違う場所を重点的に調べれば発見できるチャンスがあります。しかし、この方法には成功率という重大な問題があります。スカッドやノドンは1時間程度の準備で発射できます。石破氏が言う「ミサイルを直立させる」のはその最終段階で、この瞬間を捉えるチャンスは極めて低いでしょう。ミサイルが立ち上がれば、最終チェックが済めば打ち上げられてしまいます。その具体的な時間は分かりませんが、10分間以内だと想像します。成功率は、北朝鮮がミサイルをどう配置するかにもよります。ミサイルが位置が知られている地下基地やその周辺にばかり配置されれば見つけやすく、予想しにくい場所に配置されれば困難です。ランチャーにそっくりな熱線パターンを作り出すダミーが開発されれば、確率はさらに低くなるでしょう。

 結局のところ、確率を高めるためには石破氏が示した条件を一つ減らし、我が国に対する攻撃の意図が示された時点でプレデターを派遣し、発見次第ランチャーを攻撃するしかありません。これはやはり先制攻撃になります。また、北朝鮮が日本だけでなく、韓国とも同時に問題を抱え、両国に攻撃を行うと宣言した場合、ミサイルを直立させただけでは、どちらに飛ぶのかは分からないという問題もあります。また、何機のプレデターを準備すれば北朝鮮全土を十分に監視できるのかは、その詳細な性能がベールに隠されているため想像できません。しかし、すべてのランチャーを攻撃するのは不可能です。敵は生き残っているミサイルを発射するか、日本が一方的な攻撃を仕掛けてきたと国際社会に訴えるか、いずれかの手段を用いることになります。

 番組の都合で議論が途中で終わったので、田原総一郎氏はこの議論は来週また行うと言いました。

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