テポドン2は3段目から自壊した

2006.7.10
1:00 PM 修正

 globalsecurity.orgのテポドン2に関する記事がさらに更新されました。

 飛行距離が1.4kmから「1.4〜5kmまでの間」に訂正されました。墜落の状況がさらに詳細になると、今までの認識よりもさらに悪い状態だったことも明らかになりました。その他にも分かったことが色々とあります。

 今回の分析には「日米当局者」からの情報が含まれています。日本政府が提供した情報の内容は不明ですが、どうも日米で解析結果を共有してから国民に発表しようとしているように見えます。これまでの記事からビック氏が米国防総省のデータにアクセスできることは分かっていましたが、自衛隊の解析結果も見ているとは驚きです。これ自体も問題ですが、分析のポイントを把握するのが先でしょう。

 発射後35秒から42秒の間、ピッチ・オーバー・プログラムの最中に起こったとみられる破壊は、弾頭を覆う外殻が壊れたものと推定されました。外殻は弾頭内部に格納された人工衛星と3段目に衝突したとみられています。続く50秒〜52秒、第2段目が脱落して針路を逸れ、遠隔測定は失跡しました。その後2分間、1段目が海に墜落するまで、上昇を続けようとしました。爆発したのは1段目ではなく、3段目の外殻が壊れたことが主要原因だったと判明しました。このことから私は、ICBMとして使用する場合、弾頭には大気圏に再突入した際の高熱に耐える能力もない可能性があると思います。ところが、国防総省筋は打ち上げ失敗の原因はエンジンかコントロールの問題と指摘している、と記事にあります。エンジンに問題があるのなら1段目に欠陥があることになり、これは本当に致命的な欠陥です。コントロールの問題なら、それによって機体が耐えられない圧力が発生して3段目が破損したようにも思えます。新しい事実が明らかになったものの、失敗の本当の原因はさらなる分析を待つ必要がありそうです。

 画像解析と大気の採取により、推進剤の材質が明らかになる見込みです。ビック氏はテポドン2の2A、2B(より詳細な型式名)まではケロシン系燃料でしたが、今回発射された2Cは非対称ジメチルヒドラジン系と推定していました。また、今回の測定から、テポドン2は650kgのダミー弾頭を搭載し、6,000〜12,000kmを飛べたと推定できるそうです。

 飛行距離が短かったため、飛行経路の追跡は非常に難しく、完全なコースは測定できませんでした。弾道は人工衛星の打ち上げの場合よりは弾道弾の場合に近く、ダミー弾頭を搭載した3段式弾道ミサイルだった可能性が考えられますが、どちらだったかは判別できていないそうです。また、北朝鮮の観測船が日本海にいたことは分かっていますが、太平洋側にいたかどうかは不明です。北朝鮮は7月11日まで海上と上空に進入禁止区域を設定していましたが、観測船はすでに去っています。スカッドとノドンの落下海域が近いのは進入禁止区域内にまとめて打ち込んだからです。テポドン2をまた発射するかどうかは、もう1基あるというテポドン2が発射用と地上テスト用のいずれか不明です。発射用と地上テスト用はほとんど違いがないため、もし2基目が存在するのなら発射用だと考えられるということです。

 それから驚いたことに、北朝鮮のロケットには自爆装置がついていないため、今回の失敗が自爆だった可能性はないとも書かれています。北朝鮮は自爆装置をつけていると主張しています。

 私の考えでは、テポドン2はハワイを狙ったのではなく、舞水端里発射施設から発射した場合に辿る自然な軌道です。人工衛星を打ち上げるには、真東に向かって打ち上げるのが普通です。これは地球の自転の力を利用するために一般的に行われていることです。自転の力を最高に利用するためには、方位90度にロケットを打ちます。これによって、ロケットはより高い硬度に達します。燃焼後の落下距離は燃焼中よりもかなり長いので、高く打ち上げるということは、ICBMとして利用する場合、遠くまで弾頭を飛ばせることになります。赤道上に人工衛星を打ち上げると静止衛星として、放送、通信、気象用に活用できるため、北朝鮮はまず静止衛星を打ち上げることを考えたのではないかと推測できます。舞水端里に発射施設を設けた理由は、北朝鮮が主張しているように、日本列島を横断する場合に危険を最小にできるためだと考えられます。北朝鮮の主張によれば、テポドン1は2段目と3段目が津軽海峡の上を通過するように舞水端里から方位86度に向けて発射されました。テポドン2も同じように、津軽海峡の上を通過する軌道に向けられていた可能性があります。こうした地理上の理由と前述のようにごく自然な弾道を描いたため、必然的にハワイ南西海上に軌道が向いたのだと考えられます。この時点で、テポドン2は地球の軌道上に達しています。人工衛星の打ち上げに成功すれば、かつてソ連が人工衛星の打ち上げに成功した時に起きた衝撃がアメリカを襲うと北朝鮮は期待していると推測できます。もちろん、ICBMとしての利用が可能になれば、北朝鮮がそれを政治的恫喝の材料に使わないはずはありません。目下のところ、日本政府関係者たちは、口を揃えて「アメリカを狙った」と主張していますが、これは誤った世論の誘導と言うべきです。

 その他、報道で気がついたことを書きます。

 手嶋龍一氏は、9日のサンデー・プロジェクトで、米政府の要人が発射時にオペレーション・ルームにいなかったことをあげて、米政府は発射することを知らなかったと述べました。しかし、ビック氏は、発射台周辺のタンク車がいなくなり、準備が最終段階に入ったと考えられること、気象条件が揃ったことから4日に打ち上げられると考え、徹夜して発射の瞬間を待ったが、発射は遅延した、と論文に書いています。このことから、米政府の誰もが知らなかったとは考えられません。手嶋氏があげた事実は、米政府がテポドン2に危険はないことを知っていたことを推測する事実と見るべきです。

 額賀防衛庁長官は、スカッドERの推定射程は600〜1,000kmと説明したといいます。その前日には射程300〜500kmと言ったはずですが、1日で2倍に増えた点が気になります。今回発射されたスカッドは500km飛んだとされ、スカッドCの最大射程と一致しています。それが新型だというのは、弾道解析の結果、スカッドCのパターンと違うことが分かったとしか考えられません。しかし、同じデータを見ているはずのビック氏はスカッドCと分類しました。この差は一体何なのかということになります。北朝鮮領内からスカッドを打つと、38度線のすぐ近くまでランチャーを持ってくる必要があります。これが韓国を刺激しないわけはないと北朝鮮が考える可能性がありますが、ここから打っても500km射程だと西日本の一部しか攻撃できません。これを1,000kmに延ばすと関東方面も射程に収められ、「日本にとって重大な脅威」と言えるようになるのです。政府は少なくとも10日まではテポドン2失敗の真相を隠して、国民にミサイルの恐怖を植え付けようとしており、メディアもそれに乗っているように感じます。日曜日には前週の出来事を総括するテレビ番組が放送されます。そこでミサイルの脅威を確定的に宣伝し、週明け以降に徐々に情報を修正していくのではないでしょうか。本当に良好な防衛態勢を築くには、これは誤ったやり方です。

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