スカッドDとERは存在するのか?

2006.7.8

 8日になって、「スカッドD」とか「スカッドER」といった耳慣れない言葉が聞こえてくるようになりました。先日は、「テポドンX」という栄養ドリンクのようなミサイルの名前が出たばかりです。特に、スカッドERは額賀福志郎防衛庁長官が口にしたため、多くのマスコミが大々的に報じています。

 しかし、正直なところ、これらのミサイルの名称は確認されていなかったり不統一で、どんなミサイルなのか判然としないことに注意が必要です。連日、ニュース番組で見せられる北朝鮮のミサイルの模型は、すべてのミサイルが実在すると視聴者を信じ込ませますが、実態が確認されていないものもあるのです。ここに今回の報道の問題のひとつがあります。ミサイルの名前だけが独り歩きする前に、その内容をよく考えてみる必要があります。

 スカッドDという名前を出したコメンテーターは、これが新型ミサイルだと言っていました。従来知られているスカッドDは射程700kmといわれ、2000年9月下旬にシリアが北朝鮮の援助を受け、360マイル(579.36384km)の発射実験に成功したミサイルで新型とは言えません。

  スカッドEという名称も従来ありましたが、額賀長官が言うものとは別物かも知れません。スカッドEはスカッドDの後継機ですが、ノドン2と同一物とするレポートもあります。型式名もアルファベットのDの次のEではなく、「extended range」という意味のようです。おそらく、この名称は防衛庁が今回の解析で使っている名前のはずで、従来使われていた名称と整合性があるのか私には分かりません。こうした不確かな名称がキーワードとして闊歩するのは事態を見誤らせる原因となります。(追記 スカッドEについて、myu5さんから情報提供を頂きました

 額賀長官がスカッドERが射程300〜500kmとしていることには疑問があります。これならスカッドCと変わりません。軌道パターンがスカッドCとは明確に違うので、解析スタッフたちが別物と分類したのかも知れません。すでに性能が確認されているスカッドCと射程距離が同程度なのに、額賀長官は「射程を延ばした改良型だったとの情報もある」と述べたのは非常に不可解です。

 さらに、ノドン1は射程1,300kmといわれながら、射程500km程度のテスト実績しかありません。ノドンBの性能となると、実際に確認されておらず、射程2,000〜2,900kmといわれるテポドン1の発射テストで2段目が約1,600km飛んだことが確認されているだけです。ミサイルに関しては推定値が多く、その実態はなかなか分かりません。確からしいのは、北朝鮮にはミサイルを確実に500km程度は飛ばす技術はあるということです。テポドン1の1,600kmという記録は瞬間最大風速のようなものです。さらに、加速した弾頭を再突入させる際に生じる熱から弾頭を守る技術が北朝鮮にないと兵器としては使えません。北朝鮮が言うとおり、衛星ロケットとしてしか使えないわけです。現在、北朝鮮は日本をミサイル攻撃する能力があるといわれていますが、本当にそうなのかは断言できません。

 globalsecurity.orgが発表した発射されたミサイルの一覧表を見てみると、額賀長官の話とは異なっていることが確認できます。テポドン2の発射は3番目ではなく4番目であり、たった1.4kmしか飛ばなかったという驚くべき記述があります。発射台の周辺に部品が落下しているという情報は、これを裏付けているようにも思えます。昨日確認したところでは、世界のどのメディアもこの事実を伝えていません。

発射時刻 飛翔距離(km) ミサイル
3:23 / 3:33 500 スカッドC
4:04 600 ノドンA
4:59 550 ノドンA※
5:01 1.4 (概算値) テポドン2
(TD-2A、2B、2C)
7:12 /:10 500 スカッドC
7:31 550-600※ ノドンA
8:20 500 スカッドC※
未特定 未特定 未特定
未特定 未特定 未特定
未特定 未特定 未特定
※は「正確性に疑問の余地があるデータ」
TD-2A、2B、2Cはテポドン2のより詳細な型式

 長距離ミサイルの脅威といわれた今回のミサイル実験(北朝鮮によれば演習)は、いつの間にか短距離ミサイルの脅威にすり替えられつつあるように感じます。その理由を考えると、テポドン2が1.4kmしか飛ばなかったために、スカッドの性能を強調することで脅威を増幅し、MD推進を後退させないようにしようとしているのではないかと思えてきます。いずれテポドン2の正確な飛翔距離を発表する時に備えて、短距離ミサイルの脅威も強調しておかないとMDに対する批判が強まると考えているように思えます。過去、防衛分野で新しいことをしようとすると、常に脅威が実態以上に誇張されて推進剤とされてきました。

 globalsecurity.orgのミサイル情報はこれまで詳細で正確だったため、私は重視すべきだと考えています。今回のミサイル発射の真相について、さらに探求が必要です。

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