ウォー・ロード 戦争の指導者たち
 この本は「第二次世界大戦の起源」の著者A・J・P・テイラーが書いたものです。「ウォー・ロード」とは「戦争指導者」のことです。この本もまた、第2次大戦について論じており、「第二次世界大戦の起源」に比べると数段読みやすくなっています。

 というのも、これは最初から文章として書かれたものではなく、1967年にBBCテレビが報じた6回にわたる講義をまとめたものです。普通、この種のテレビ番組では、イラストやアニメーション、戦場が写っているものの、本当にその日に撮影されたのか判然としない上に、擬音の発砲音、爆発音などがつけられた実写フィルム(第2次大戦時、手持ちカメラには音声を記録する機能はありませんでした)などにナレーションがつけられるものですが、テイラー氏は何も使わずにただ延々と講義を行い、それをそのまま放映したのです。どのような番組だったのかや映像を入手できるのかは分かりませんが、男性の学者が一人で喋りまくる、かなり異色な内容だったろうと想像できます。

 6回の講義で取りあげたのは順に、ムソリーニ、ヒトラー、チャーチル、スターリン、ローズヴェルト、そして日本の戦争指導者です。6回目だけは個人ではなく、天皇をはじめとする日本の指導者全体を取りあげました。6回目のスタイルが違うのは、当時の日本にはそうした人物が存在せず、最高指導方針も存在しなかったからとテイラー氏は説明します。しかし、便宜上のためか、カバー写真には5人の国家元首と共に昭和天皇の写真が印刷されています。

 この説明を読んだ時、少々複雑な気分になりました。このことは、私たちの罪悪感を和らげることになるのか、それとも当時の日本社会の欠点を指摘したものと見るべきなのかで迷うからです。確かに、昭和天皇は戦後自ら、自分が絶対君主ではなく立憲君主であることを意識し、基本的に忠臣が持ってくる書類には反対しなかったと述べています。却下したのは226事件と終戦決議の2回だけで、他は意見を述べる程度で最終的には賛成しました。特に、開戦の決議は「無言の裁可」を貫いて、開戦に対して微妙な立場を示しました。この本はなぜそうなったのかについて、イギリス人にも分かるように説明しています。もっとも、それらは昭和史に通じている日本人なら大抵知っているものです。天皇に実際に許された権限、統帥権の独立、青年将校による暗殺事件など、昭和史を語るのに不可欠な要素が説明されています。

 日本を除いた5人の国家元首について、テイラー氏は第1次大戦には存在しなかったウォー・ロードについて解説します。「ウォー・ロード」は自分で戦争に関わる政策をすべて決定できる、フン族のアッティラやナポレオンのような人物で、ヒンデンブルグやルーデンドルフよりも遙かに権限をもっている人物だといいます。第2次大戦はこれらのウォー・ロードによって行われた戦争だったとテイラー氏は主張します。「第二次世界大戦の起源」の副読本としてや、この戦争の資料のひとつとして活用して欲しい本です。(2007.1.18)

Copyright 2006 Akishige TanCopyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.aka all rights reserved.