ソ連軍の素顔 / ザ・ソ連軍 / 続 ザ・ソ連軍 
 この3冊の本は、日本で最もソ連脅威論が吹き荒れていた1983年に出版された、亡命したソ連軍将校による暴露本です。

 正直なところ、最初にこの本を読んだ時は半信半疑でした。ソ連軍がこんなに腐敗し、戦力の実態を大きく見せかけているのだとは信じられなかったのです。当時、私はソ連軍は共産革命のために科学的な訓練を積み重ねているのだと、真面目に信じていました。とにかく、ソ連軍と言えば、物量に物を言わせて攻撃してくるというイメージしかありませんでした。だから、ビクトル・スヴォーロフという仮名の著者はホラを吹いているのではないかとも思いました。スヴォーロフ氏はソ連軍の参謀本部第10総局にいたことがあり、階級は佐官級で、イギリスに亡命した人物と紹介されています。彼の主張の信憑性については、訳者が各メディアの評価を詳しく書いています。

 しかし、これらの本に書かれているソ連軍は、末端の兵士は新兵をいじめるので忙しく、将校は上官へのごますりで忙しく、部隊の査察はインチキで乗り切るのが常態という、およそ考えられない姿です。装甲車の操縦の査察は、運転がうまい隊員が先に装甲車に乗り込んでおり、査察官の目の前でテストを受ける(ことになってる)兵士が次々と装甲車に乗り込み、上手に操縦して見せます。実際には、彼らは操縦しておらず、先に乗り込んでいた兵士がずっと操縦しているのです。ドニエプル川渡河演習では、事前に川底を舗装して進撃路を作り、大規模な装甲部隊が事故もなく一斉に河を渡って見せ、居並ぶ観閲武官をアッと驚かせました。あるいは、ソ連軍の兵士の多くは地図の読み方を知らない…等々。

 この種の暴露本は自衛隊に関しても存在し、それを読むと自衛隊の戦力はお寒く思えてしまいます。だから、あまり真に受けない方がよいのかも知れませんが、暴露本として書いたのではなく、西欧に見られるソ連軍に対する誤解を解きたいという動機で書いています。そういう目でこの本を読むと、確かに彼が西欧のソ連軍の評価を読み、それに応える形で書いているように見えてきます。できれば、それぞれの文章の元になった西欧のソ連軍評も合わせ読んでみたいところです。そうすれば、もっと深く本書を理解できるでしょう。本書からは、西欧がソ連軍の実態を正しく理解していないことに対する強い不満が感じ取れます。

 一例として、本文中に書かれている、ある戦術クイズを要約して紹介します。

 あなたがソ連軍の自動車化狙撃連隊の連隊長だとします。配下の3個中隊に同一地帯を進撃させたところ。ある中隊は全滅寸前で頓挫し、別の中隊は甚大な損害を受けつつも前進を続け、もうひとつの中隊は反撃を受けて壊滅し、退却中となりました。あなたには予備戦力として、3個戦車中隊と3個砲兵中隊を持っています。この予備選力をどのように使うべきか、ソ連軍の連隊長としてお答えください。

 著者は、このクイズを西側の将校に何度も出題して、誰も正しく答えてくれなかったと書いています。ここでも回答は示しませんが、それはソ連軍の特質をよく表しています。知りたい方は是非「続ザ・ソ連」をお読みください。

 いまや、20年前のソ連軍の話となってしまいましたが、軍隊の性質がそう簡単に変わるものではないことも事実です。今でも、この本に書かれていることは別の形でロシア軍に存在するかも知れません。ロシアはいずれ軍事力を立て直すことに成功するでしょう。その時に、こういう本を読んでおけば役に立つはずです。(2007.1.10)

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