2007年1月の投稿

過去の投稿の目次

投稿者:黒曜石
日 付:2007.1.24


田中様
お久しぶりです

映画評論家のサイトにイラクで活動中のイギリスの民間警備会社の傭兵が後方から接近する自動車を無差別に射撃している映像が紹介されていました(本物なのかわかりませんが)
http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20070122

既にご存じでしたらごめんなさい。

 映像自体は本物だと思います。しかし、エルヴィスの歌は後から録音したものでしょう。車内で流している音ではないようですし、画面が切り替わっても歌が飛んだりしません。場所ははっきり分かりませんが、イラク国内だとしてもおかしくはありません。あまりチェックしていませんが、YouTubeにはこの種の映像が流出していそうですね。それにしても、自分の首を絞めることになるとも思わず、好き勝手に映像を出すとは、いかに民間軍事会社の警備員が好き放題やっているかという証拠と言えるでしょう。(スパイク)
投稿者:
日 付:2007.1.24

スパイクさん、こんにちは。
いささか旧聞に属しますが、昨年5月のルモンド・ディプロマティークに載っていたイラク情勢分析を貼り付けます。
この当時よりも武装勢力はより一層強力に、したたかに成長しているようですね。

http://www.diplo.jp/articles06/0605-3.html

 これは重要なレポートですね。

 「こうしてみると、イラクの紛争は、すでに現実となっているアル・カイダの組織崩壊を完遂するための残務処理的な戦闘として理解できるものではない。」という結論部分は正にその通りだと思います。しかも、アメリカの政策が根本的に誤っていたとも結論しています。そして、こうした分析ができても、対策を講じられないところに歯がゆさを感じました。まして、ブッシュ政権がイラクに固執するほど、他の地域で反米感情が高まり、イラクに行こうとするイスラム主義者が増えるわけですから、なおさらです。閉塞感を強く感じますね。(スパイク)
投稿者:
日 付:2007.1.23


スパイクさん、こんにちは。
自衛隊専門紙「朝雲新聞」の名物コラム「朝雲寸言」に米国のイラク戦略批判が載っていたので紹介します。

朝雲寸言2007/1/18付

正月休みに、塩野七生さんの「ローマ人の物語」の最終版「ローマ世界の終焉」を読んだ方もおられると思う。
出だしから最後まで、ローマ市民の唯一の義務は国防であること、エリートが軍務と政務の両方を経験して一人前の指導者になるローマではシビリアンコントロールの必要がないことなど、その骨太の世界観に教わるところは多い。
執筆の期間が冷戦終結からバブル崩壊を経て今日に至る長期にわたっている以上、塩野さんは、ローマ帝国の歴史に日本の国のありようを重ねていたに違いない。
世界帝国ローマの成功要因が、敗者の文化を受け入れ、ローマに同化させる寛容さにあったことは何度も強調されているが、これも、イラク戦争以後のアメリカに向けた痛烈なメッセージとして読むことができる。
今回の本の中に出てくる「少数の勝者で多数の敗者を統治する鉄則は既存の統治階級の温存だ。(敗者が絶望すれば)死にものぐるいの抵抗にあい、それを制圧するために投入する軍事行動の泥沼化しかない」というフレーズにいたっては、明らかにイラクを意識したものだと理解したい。
折しも、アメリカで出版されたイラク統治を巡る米政権の苦悶を扱った「STATE OF DENIAL」の中には、周到な統治計画を欠いた政権の誤りが描き出されている。ブッシュ政権はイラクに2万人の増派を決めたが、ローマ人の目には、どう映るだろうか。

(引用ここまで)

コラムは自衛隊OBの手になるものだと思います。隊内にこういう論評が持ち込まれる自由はとても大切です。自衛隊は民主主義体制下の自衛隊であり、国の独立は国民の安全と自由と民主主義を守るためにあると私は考えています。省に昇格しても、その性格の右翼性を指摘される政権のもとにあっても、自衛隊は旧軍のような組織に変質してほしくないなと思います。

 ローマ時代の政治制度を引用したのは、直接的な政府批判を避けるためと想像されますね。(笑)

 このコラムが暗示しているのは、民主主義もうっかりすると旧式の政治制度に劣る状態になるということだと受け止めました。現在のアメリカがそうですし、日本もそうなりかねないと自重すべきだと思います。

 安倍総理が言う「美しい日本」は、要するに「国粋主義者で構成される日本」のことを言うのだと思います。安倍総理は就任の演説の中で「country identity」という英単語を持ち出し、すかさず「national identity」の誤用だという指摘を受けていましたが、この言葉を見ても分かるように、安倍総理は国粋主義の国を理想としているのだと考えざるを得ません。総理の著書「美しい国へ」の紹介文にも「真のナショナリズムのあり方」と書かれています。もちろん、安倍総理は「真のナショナリズム」は他国を排斥するようなものではないと言うのでしょうが、私には「政府がすることに文句を言わない日本人を歓迎する」という風にしか読めません。

 こんな政治テーマはもう時代遅れです。「世界中の人が安心して占める国、日本」の方がよほどよいかと思います。防衛問題に関して言えば、与党がどのような防衛態勢を考えているのかがまったく分からない点で、評価のしようもありません。憲法を改正して、自衛隊の名称を自衛軍に変えたところで、それが国防の骨格だとは思えません。名称を変える必要もなく、自衛隊は対外的には軍隊として認められています。これは、日の丸が長らく法制度がないままに海外でも国旗として認知されてきたのと同じで、自衛隊も軍隊として認知されているのです。だから、こんなことで国防政策の流れを変えたと考えられても意味はありません。まして、アメリカの求めに応じて自衛隊を派遣するために憲法を変えるのでは、悪影響しかないでしょう。こうした努力よりは、政府の政策の中に「アジア地域の安定と平和」を置き、そのための取り組みや活動を銘記すべきだと思います。周辺国の脅威論しか論じないという現状は好ましくないと思います。総じて、ローマ帝国の政治制度を評論するほどに、日本の防衛政策には評論すべき内容がないと思います。

 私はまだ読んでいませんが、読む気がある人のために「美しい国へ」の商品紹介を掲載しておきます。(スパイク)

投稿者:
日 付:2007.1.11


遅まきながら、あけましておめでとうございます。本年もいち早い情報と鋭い分析を期待しておりますので、よろしくお願い致します。

投稿欄が活況を呈していますね。レベルの高い投稿の中に混じるのは恥ずかしいですが、BBCに興味深い報道があったのでお知らせします。
劣化ウラン被害がイタリア軍に飛び火したかも知れないニュースです。

http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/6247401.stm

 圧力団体が、50人の退役軍人が死亡し、200人が重体と主張。イタリア国防省が軍人の発ガン率が平均値よりも高いことを指摘する科学者の報告を公表しているというのは、注目に値する情報ですね。

 世の中には劣化ウラン弾の問題を軽視する人たちがいます。その論理たるや疑似科学的で、劣化ウラン弾の放射能は少ないのだから被爆被害は少ないはずなどと主張します。これは外部被爆と劣化ウラン弾の内部被爆の違いを無視した見解です。同じ被爆でも状況により身体への影響は様々です。極めて近い距離で被爆した東海村臨界事故では、被害者の症状は従来の医学書に載っていないものだったと、治療にあたった医師が言っています。同じ被爆でも症状は様々だということを知る必要があります。

 問題が明らかになってから行われた、戦車に劣化ウラン弾を撃ち込んで、劣化ウランが飛散する距離を調べる実験では、劣化ウラン弾は比重が小さいため、戦車の周辺にしか飛散しないと報告されました。しかし、劣化ウラン弾を開発する過程で行われた実験では、何百メートルも飛散することが明らかになっていたのですが、それがうまく隠されてしまいました。また、劣化ウラン弾が遺伝子異常を引き起こすことも解明されつつあります。現状は無関係と切り捨てることはできないところに来ています。

 白リン弾が化学兵器ではないと主張する人たちもいます。彼らは、たとえば、自衛隊の戦車に搭載されている発煙弾にも白リンが使われているのだから、化学兵器のはずがないなどと主張します。そして、富士演習場で行われる総合演習で発煙弾が使われるのを、テレビニュースなどで見ているではないか、などと主張します。これはそもそも何かを立証する論立てではない上に、関係する法律に対する無知を露呈しています。目的にあった方法や量の化学剤は使用が認められており、車載の発煙弾は国際法違反にならないのです。

 こういう人たちは、兵器の名前と性能の関係しか頭に入っておらず、その枠組みの中でしか軍事を考えようとしません。知識の枠内で何でも結論しようとするので、ハイテク兵器がもたらす未知の危険には目が向かないという自己矛盾とアイロニーに陥っています。(スパイク)
投稿者:銭湯犬
日 付:2007.1.5


今年もよろしくお願いします。

新年早々、毎度の突っ込みでスミマセンが……

・1/3のニュース解説「元統合参謀議長が同性愛者の入隊を容認」にある、「同性愛者に生まれるかどうかは、母親の胎内にいる内にホルモンバランスによって決まるので、本人の責任とはいえないことが医学的に立証されています」というのは明らかに言いすぎです。そういう説がある、程度です。セクシュアリティー論は学生時代の専門分野の一つでしたので自信を持って言い切ります。

・推奨メディアに取り上げられている『鉄砲を捨てた日本人』は、日本史研究者によってまったく話にならないと批判されており、逆に、江戸時代には村々に多数の鉄砲があったことが明らかになってきています。大学院でこのテーマを研究している後輩が断言しているので間違いありません。

では、また。


/銭湯犬

 今年もよろしくお願いします。

 早速の突っ込み、ありがとうございます。(笑)

 私が読んだ本には、同性愛者が生まれる原因は科学的に証明済みと書かれており、その根拠も書かれていいました。しかし、その本の著者が先走りしていたようですね。

 「鉄砲を捨てた日本人」はいかにも断定的な装いのタイトルで、それが批判を招いていると考えています。本文を読めば、実証的な内容ではないことを断っていますし、議論を呼ぶことが目的なのは明らかです。この本に対して、日本側から事実誤認などの批判が出ていることは承知しています。しかし、この本で述べているのは、戦国時代以降、日本に鉄砲がなくなったことではなく、減ったということと、技術革新が止まったということです。もっとも、批判している人が、戦国時代と変わらない程度の鉄砲があったとか、西欧並みの技術的進歩があったと証明できるのなら別です。しかし、反対意見についても興味が湧いてきました。「鉄砲と日本人・鉄砲神話が隠してきたこと」という本が、ペリンの意見を批判しているらしいので、近いうちに読んでみます。(他にも類書を知っている方がいたら教えてください)

 とにかく、注意を喚起するために、両方のページに、この投稿へのリンクを張っておきます。(スパイク)

投稿者:myu5
日 付:2007.1.1


スパイク様、あけましておめでとうございます。

さて、12月30日の「ニュース解説」についてですが。
(私は、当該番組を見ていないので、見当違いかも知れませんが)

石破氏の
「徴兵制はハイテク兵器の時代にはそぐわない。半年や1年、
軍隊にいてもらっても、戦車も戦艦も動かせない」

如何に同氏でも、通常兵役期間がそんなに短い事はない、ということはご存知でしょう。
そこで私が思いついたのは、安倍首相の教育改革の構想の一つに、大学入学を9月として高校卒業後半年間の奉仕活動を義務づける、というのがあったことです。同氏は、これが徴兵制に結びつけて考えられるの予期して、それを否定したくてそのような発言をしたのではないでしょうか?
勘ぐってしまえば、そういう発言がでることからして、やはり将来的には徴兵制導入の足がかりを作りたいと現政権が考えている、とも言えると思います。

では、失礼致します。

 お久しぶりです。今年もよろしくお願いします。

 石破氏が短すぎる徴兵期間をあげたことは、確かにそれくらいは彼も知っているはずとは思います。時として彼は不適当なことを述べることがあり、またそれかも知れないと思いました。それに話の流れからして、この数字を上げるのはどう考えても不自然でした。

 学生の奉仕活動は森内閣の時にすでに原案が出ているようです。サッチャー政権がやった政策の模倣という話もあるようですが、その経緯は私はよく知りません。現在、教育再生会議の方でも「長期集団宿泊体験、奉仕活動、ボランティア体験、職業体験」が討議されているようです。これが徴兵制に結びつくかどうかは何とも分かりません。仮にそうだとして、石破氏が反対するかどうかも予想がつきません。彼は、消極的な現状追認型の発想をすることは分かっているので、反対しない可能性があるとは思います。しかし、確たることは分かりません。

 安倍総理の世代が持つ感覚というのは、彼らが若い頃でもすでに、大戦当時と比べれば大幅に自由が認められていました。彼らにすればこれ以上自由にしたら若者が大人の言うことを聞かなくなるという危機感があるのではないでしょうか。私はそんな杞憂は意味がないと思います。若い人たちの方が問題意識を強く持っていることもあります。政府が徴兵制を考えていると仮定すると、すでに軍事的な発想から乖離していると言えます。白虎隊やヒトラー・ユゲントの事例にあるように、少年部隊は邪魔者扱いされた挙げ句、悲惨な最期を迎えるのが通り相場です。それを考慮せずに徴兵だけを考えているのなら最悪です。(スパイク)
投稿者:谷口正弘
日 付:2007.1.1

田中様

明けましておめでとうございます。
はじめまして。私は谷口正弘と申します。
突然のメール、失礼いたします。

いつもウエブページを拝見しております。

田中さんの適確な軍事知識とバランスのとれた政治的見識、現在の日本、米国そして世界の現状への批判的見方による(その「現状」はそれを構成している国家としての日本や様々な主体が作り出しているわけですが)、緻密な事態の分析とその解説は非常に参考になっています。

そしてそれを元に現状へのオルタナティブな行き方(国家政策だったり個人の意見・態度だったり)をご提示されようとしているご姿勢とその実行を見てはいつも、自分の知識の量と質はもとより、考え、生き方を自分に問うています。

以前から応援のメールを送ろうと思っていたのですが、なかなか書ききれずにいましたが、しかし、今回「2006年を振り返って」でを読んで、軍事への理解の重要さをあらためて思った次第です。

私のことを簡単に申しますと、現在東京在住の34歳で、出身は札幌です。
北大法学部、大学院(修士と博士課程)では中村研一先生という先生の下で国際政治、安全保障を研究していました。特に軍事(ハード、戦略)、「同盟論」、自衛隊、米軍、米軍のRMAの進展と日米間の政治的軍事的乖離、MDの軍事的・政治的不可能性・不安定性、北東アジアの安全保障などについて関心を持っています。論文とも呼べないものですが修士論文テーマは「湾岸戦争における「同盟」の形成」というものでした。博士号は取らないまま、今は残念ながら政治とは無関係の仕事に3年半ほど前から東京でついています。

2000年から2年間、アメリカのPittsburgh大学の大学院で安全保障を勉強しました。Pittsburgh近郊に一機飛行機が墜落するなど9−11をそれなりにまじかで見ていました。そのときのアメリカ人や他の国からの学生との議論は非常に稀有な経験でした。

現在はその分野の研究とは違う仕事についてしまっていますが、政治・軍事への関心を持ち続けております。とくにこの10年ほどの日本社会の右傾化、戦後の自称「軍事オンチ」というコンプレックスの裏返しとしての過剰な俗耳に入りやすい「俄か軍事・安全保障論」の流行に非常な危惧を持っています。(+相変わらずの中国、韓国、北朝鮮への蔑視)

田中さんが少し前に書かれていた「威勢のいいことをいえば「安全保障」を論じている」と受け止められる風潮は非常に危険だと思っています。外務省や防衛庁のOBのみが「安全保障専門家」として流通してしまっています。自ら、一番知っているのは自分だ、という意識の強さゆえに、自分がかけている「メガネ」(perception)に無批判てきであり、そのゆえに、自分に欠落している他者の価値感、歴史的事実・意識にナイーブなほどに無自覚になっているように思います(一般人は言わずもがなです)。

私としては、日本的に意味での「リベラルな安全保障論」の必要を強く感じています。自分がそうなれればとも思っておりますが・・・

長々と取り留めのない文章になってしまいましたが、田中さんへの応援(と自分への気合)として、メールをお送りしました。読んでくださいましてありがとうございました。私も田中さんのHPを通して何かしらの貢献をしたいと思うとともに、自分でも何かやっていこうと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。

それでは乱筆乱文、失礼いたします。

今年一年が、田中様にとっていい年になりますように。また武力紛争の犠牲になる人が少しでも減ることを祈って。

谷口正弘

 谷口さん、メールありがとうございます。当サイトを応援してくださってありがとうございます。政治学を専攻した方に同じ指向を持つ方がいるのは力強い限りです。

 政治家が先鋭的な安全保障論を叫ぶのは本当に困った問題です。それが音程が狂ったオルガンのようなものだということに気がつかないのかと思います。特に、それが与党である自民党から聞こえてくるのは困ったことです。同じく与党の公明党は何の批判もしません。野党第一党の民主党が、安全保障論では自民党に近い点がなお問題かと…

 ご指摘のように、外務省や防衛庁OBが即、専門家として、特にテレビメディアで発言する点も気になりますね。キャリアがあるだけに、彼らの発言には信憑性があります。しかし、時として彼らの発言も大きく誤ります。テポドン2が発射された翌日、そうした専門家たちはテポドン2がアラスカに向けて発射されたと言いましたが、実際には違っていました。あるテレビ番組で、テポドン2が墜落するまでにどこまで飛んだのかという司会者の疑問に対して、どのゲストも答えられなかったのは印象的でした。また、彼らはほとんど、政府の代弁者としての役割しか演じません。某警察OBがこの事件に関して、ミサイル防衛を急げと発言したことが思い出されます。

 戦後、左翼勢力がこうした状況を生んだという主張も疑わしいものがあります。左翼勢力がかつての元気を失った今、与党は進んで正しいとはいえない方向へ自らの選択で邁進しています。

 911テロ時に、アメリカの学生と交わした議論について、機会があったら聞かせてください。(スパイク)

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